わたしの中の『資本論』

*働きながら、『資本論』を勉強しています。

「あの人に迫る」**斎藤幸平さんの巻を見ました☕

 東京新聞2月20日(土)朝刊の「あの人に迫る」は、斎藤幸平さんの巻でした。タイトルがすごい! 「コミュニズムが人命と環境を守る」 なんか、素敵なことが書いてあるのかな、と思って読んでみました。

 斎藤さんは、「コロナ禍で資本主義の矛盾が明らかになってきたこと」は、「資本主義は利潤、つまり『もうけ』を無限に求めるシステム」である、ということだと主張します。そして彼は、例として、ワクチンをとりあげて、「製薬会社は利潤のためにワクチンを高く売り出す。貧しい国の人々は買えません」、といいます。「『GoToキャンペーン』をやったのは、経済を回すため。…人間が、もうけを求めるための自動装置の歯車になっている」、といいます。「人間」一般? 弱い立場の人たちじゃないの? 

 さらに、斎藤さんは、記者の質問に答えて、「人類の経済活動が、環境を破壊し尽くす『人新世』と呼ばれる時代に突入したと指摘する科学者たちがいます。大量生産・大量消費の経済を『回す』ために石炭、石油、天然ガスや、電子機器に組み込むレアアース(希土類)を大量に採掘する。東南アジアや南米の熱帯林を伐採する。修復不能な程の環境破壊が、パンデミック(世界的大流行)だけでなく気候変動をも引き起こしています」、と危機を訴えます。そして、「(資本家は)人々の安全よりも、利潤を優先するからです」、と批判しています。これは、正しい! だから、10年前にフクシマ原発事故を経験しても、まだ原発をやめようとはしません。

 と、ここで、記者が、「資本主義には、良い面もあるのでは? 無駄遣いを減らすとか」、と突っ込みます。すると、斎藤さんは、「企業のもうけを優先した効率化は、大事な物やサービスまで削ります」、といってまた例をあげています。彼は、行政が公立病院の数を減らしたことを例にあげていますが、「感染症」など儲けの少ない診療科目の削減や医療従事者の削減についてはふれていません。医療従事者が、バッシングに会いながらも懸命に人命を救おうとしているのに、なぜ? 斎藤さんは、「正社員(マルクス経済をやっているのに、正規労働者とは言わない)を削る」とは言っても、代わりに安価な非正規労働者を使う、とはいいませんね。その非正規労働者が首を切られたりして、自殺者まで出ているのに、ひと言もない!

 記者がSDGs(持続可能な開発目標)が、資本主義の下での経済成長と自然環境の保護は両立できるのではないか、と言うと、斎藤さんは、「SDGsは、百害あって一利なし。いや、現実から目をそらさせる『大衆のアヘン』です」、と記者を批判します。でも、なぜ、そのようにいえるのかについては、明確な判断根拠は示していません。

マルクスが、「宗教はアヘンだ」といったことを、真似してみただけなのでは?

 記者が、斎藤さんのいわゆる「脱成長コミュニズム」について質問しています。斎藤さんは、「資本主義に急ブレーキをかけることです」、と答えています。どうやってそれを実現するのかについて、彼は、お待たせしましたとばかりに、次のように語ります。「際限のない利潤追及をやめる。人間が住めなくなるまで、地球環境を破壊し、長時間労働に苦しみながら大量に生産・消費・廃棄する経済システムと手を切るのです。資本主義の下では金融やコンサルタント業といった中に、もうけを出す他に意味のない仕事がたくさんあります。それを禁止する。年中無休や二十四時間営業もやめ、社会全体の労働時間を大幅に縮める。それだけで生活の質は向上する。……ベルトコンベヤーの前で単純な作業を繰り返すような、単純でつらい仕事は撤廃しましょう。……『エッセンシャルワーク』を重視する。」そして、「資本家によって商品化されている生活に不可欠な物やサービス、資源や生活設備などは、これを『コモン(共有財産)』とする。労働者や市民の自発的な結社が協働で管理・運営します。もうけにとらわれずコモンに重きを置けば、人新世の危機を乗り越えられると考えています」、と主張しています。

 ここで、私には、疑問がわいてきます。それは、斎藤さんがいう「脱成長コミュニズム」というのは、マルクスの思想とはちがうぞ、ということです。資本主義社会で、労働力しか持っていないから、それを時間決めで売って命をつないでいる労働者が商品でなくなることを、斎藤さんは望んではいない、ということです。これでは、斎藤さん自身が、「大衆のアヘン」といったSDGsを他面から支えるものになっていしまうのではないでしょうか?⁉ 

 「……資本主義が続くのは仕方がない、と受け入れてはいけません」、と斎藤さんはいいますが、実は、彼は、根本的に資本主義にアンチをたたきつけているのではないのです。資本主義の持続速度を少し遅くしましょう、と言っているだけです。だから、昨年12月に、成立した「労働者協働組合法」を手放しで喜んでいるのでしょう。「コミュニズムが人命と環境を守る」、という斎藤さんの考えは、結局、国連や各国政府や資本家たちが資本主義社会の生き残りのために唱えたSDGsの下支えにしかすぎない、とわかりました。

 斎藤さんは、労働者の味方なの? 誰の回し者?

(2021.2.21)