わたしの中の『資本論』

*働きながら、『資本論』を勉強しています。

「会計年度任用職員制度」は、いったい誰が得をするの?? (*その3)

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市役所のAI窓口……


   私は、数年ぶりに、市役所に出かけました。カウンターには、眠たそうな顔をした職員たちが、機械から押し出したような声を出して、住民への応対をしていました。以前との違いに驚いたのは、市役所内のいたるところにある、除菌ポンプの数より多い「監視カメラ作動中です」のスッテカーでした。市役所への来庁者は全員監視されているのでしょうか? それとも、職員たちが監視されているのでしょうか? 職員たちは、どんな気持ちで働いているんだろう? 

 そんなことを考えながら待っている間に事務室を覗き込んだら、年配の職員がひとりで電話対応をしていました。事務室の電話は何台もうるさく鳴り響いていましたが、他の職員は誰も出ようとはしません。窓口付近にいた常勤と思われる職員が、その年配職員が電話応対中であるのにもかかわらず「カイニンさ~ん、さっさと対処して、次の電話出てよ!」、と叫んでいました。そして、そばにいる常勤と思われる職員に、小声で、「カイニンって、常勤職員と同じ仕事をしなくちゃならないのよねぇ」、とブツブツ言っていました。私は、その「カイニンさん」と呼ばれた年配職員の人が気の毒になりました。窓口付近の常勤職員らしき人は、事務室にいる他の常勤職員と思われる人たちには、電話を出るようには言いませんでした。なぜなのか分かりませんが、電話に出なくてもいい職員がいるのか、とビックリしました。

 年配の「カイニンさん」と呼ばれた職員は、「(私にはちゃんと名前がありますとばかりに)私の名前は小森です! 手があいていたら、電話をとってもらえませんか」、と返していました。でも、電話は鳴りっぱなしで、結局、その年配の職員が順番に応対することになりました。

 私は、長いこと待ってから、住民票を受け取ると、後ろ髪を引かれる思いで帰宅しました。帰宅後、友人の裕さんに電話して、市役所での出来事を話しました。裕さんは、ハ~ッ、と長く息をはきながら、その年配の職員の話をしてくれました。

 年配の職員は、小森さんといって、再任用職員を5年務めたのちに、会計年度任用職員になったとのことでした。住民係で長いこと勤務しているが、常勤職員の異動が3年ぐらいに行われるため、彼女を知る人がほとんどいない、とのこと。住民係で部会を再建しようとしたが、協力してくれる人がどんどん異動させられた、とのこと。そのうち、彼女は、会計年度任用職員になったが、組合の執行部は会計年度任用職員を組合員にオルグしようとはしない、とのことでした。

 当初私は、住民係の常勤と思われる職員に腹をたてていたのですが、裕さんの話を聞いて、「それは、組合執行部が悪い!」、と裕さんに怒りをぶつけてしまいました。それにしても、小森さんが部会の再建に失敗したことは、とても悔しい、と思いました。

 さらに、小森さんは、以前常勤職員であったため、知らず知らずのうちに、「働かされてしまう」のではないか、と私は思いました。常勤職員の経験があるから、電話対応も、窓口対応もそつなくこなしてしまう小森さんは、常勤職員の半額以下の給料で、常勤職員並みの仕事をこなしてしまっています。しかし、そんなことは無頓着に、同じ職場で働く若い常勤職員は、自分たちの手脚のように、小森さんを使っている、これっておかしい! と私は思います。

 私は、窓口職員の疲れた顔を思いだして、裕さんに言いました。「さっきは、小森さんに電話対応を押し付ける常勤職員に頭にきていたけど、小森さんも何でもこなしてしまう、ということはいいことかしら? 他の会計年度任用職員の人から見たら、小森さんはどう映っているのかしら? 常勤職員にゴマ擦っているとか、もとは常勤職員だったからね、とやっかみなんかないかしら?」

 裕さんは、「私はもともと臨時職員だから、そこいら辺は微妙だよね。小森さんは常勤職員の時は、私にも声をかけてくれたり、仕事もいろいろ教えてくれたりしていたけど……。同じ雇用形態の人どおしで対立していたらダメだよね。私は、以前、明ちゃんに教えられて、一瞬、当局の術数にはまってしまったことを思い出したわ。それから、むずかしいけれど、常勤職員と会計年度任用職員との亀裂はさけないとね。団結するのを怖がるのは、当局だものね。それにしても、組合執行部はやる気がないわね」、と私にいいました。

 私は、思いました。市当局は、常勤職員のひとり分の予算で3人を雇えるような低賃金で非常勤職員を「定数外」の形で雇ってきました。「定数外」とは、定数としては、存在しない、ということです。当局は、そうやって、常勤職員の退職不補充の穴埋めを行ってきました。常勤職員が有休や生理休暇を使うのを躊躇せざるを得なかったりするのは、このことに原因があるのだと思います。

 私は、雇用形態の違いをのりこえて、市当局による人員削減による労働強化に反対していけるような労働者の団結をつくりだしていくことの必要性を感じました。