わたしの中の『資本論』

*働きながら、『資本論』を勉強しています。

〝放射性汚染水〟を海に流してはいけない!

◆ドイツが脱原発完了! 廃炉までには課題は残るが……

 このブログを書いているときに、ネット・ニュースが飛び込んできたので、引用します。

 「ドイツで15日、東京電力福島第一原発事故を受けて決めた脱原発が完了する。稼働中の最後の原子炉3基が同日夜(日本時間16日朝)、送電網から外れて運転を停止し、国内の原子力発電量はゼロになる。同事故後に脱原発が実現するのは先進7カ国(G7)で初めて。原発推進の日本と一線を画し、今後は再生可能エネルギーをさらに拡大する。」(2023年4月14日 信濃毎日新聞デジタル)

       

①本当は怖いトリチウム

 政府は、福島第一原発事故による汚染水が増えて、「汚染水を貯蔵するタンクを増設する敷地が足りない」ことを押し出して、そのことを〝口実〟に、放射性汚染水の海洋放出を決定しています。そのため、政府や東電は、トリチウムの人体や環境への影響を、とにかく軽いと宣伝しています。トリチウム水は、外部被曝による人体への影響は考えられないし、体内に取り込んだ場合にも速やかに体外に排出され(生物学的半減期は、10日)、特定の臓器に蓄積することはない、というのです。

 政府も東京電力も、福島第一原発事故の放射性汚染水は、ALPS(多核種除去設備)によって、ほとんどの放射性物質は取り除くことができる、と説明しています。ただし、トリチウム水は、水と分子構造がほとんど同じであるため、ALPSでも除去できない、と言っています。だから、ALPSで処理した後の「ALPS処理水」という名称の放射性汚染水を海水で薄めて(※国の基準の40分の1、WHO(世界保健機関)飲料水基準の7分の1)、1㎞先の沖合に放流することを政府が決定し、今年の春から夏にかけて実施する、というのです。

 さらに、「国の小委員会の委員を務めた茨城大学の田内広教授は、トリチウムが体内に取り込まれてDNAを傷つけるというメカニズムは確かにあるが、DNAには修復する機能があり、紫外線やストレスなどでも壊れては修復しているのが日常。実験で、細胞への影響を見ているが基準以下の低濃度では細胞への影響はこれまで確認されていない」と話しているとNHKが伝えました。そのことを報じたNHKは、低い濃度を適切に管理できていればリスクは低いとする政府や東電の主張をあと押しする役割を演じているように思います。

 おまけに、国際原子力機関IAEA)は、各国のほかの原発で行われている排水放出に似ているとして、この計画を支持しています。IAEAのラファエル・マリアーノ・グロッシ事務局長は、「海洋放出はどこでもやっている。目新しいことではなく、スキャンダルでもない」と話したそうです。IAEAは、政府と東電にお墨付きまで与えたのです。

 しかし、わたしは、政府や東電がとりたててトリチウムを全面に押し出して「問題ない」と力説していることに疑問をもっています。本当は、トリチウムの怖さを知っているのではないか、とも思っています。

 

 *分子生物学者の河田昌東氏は、<トリチウムの人体への影響を軽く考えてはいけない>と警鐘を鳴らしています。河田氏がゲスト出演したVideo News の概要から、トリチウムの人体への影響について、以下に引用します。

 「政府は今回海洋に放出されるトリチウム汚染水はICRP(国際放射線防護委員会)の勧告に則った日本の放射性物質の海洋放出の安全基準を大きく下回る水準まで希釈されることが前提となるため、人体への影響は問題がないとの立場をとっている。

 しかし、河田氏はそもそもICRP勧告はトリチウムのOBT(Organically Bound Tritium=有機結合トリチウム)としての作用を明らかに過小評価していると指摘したうえで、トリチウムの人体への影響が明らかに軽く見られていると警鐘と鳴らす。それはトリチウム水がほとんど水と変わらない分子構造をしているがゆえに、人体の組織内に取り込まれやすいという、まさに水素同位体であるトリチウム固有の性質を考慮に入れていないからだ。

 水素に中性子を2つくっつけただけのトリチウム水は、水とほとんど変わらない分子構造をしているため、容易に体内の組織に取り込まれる。人体がトリチウム水(HTO)と普通の水(H2O)の違いを識別できないからだ。しかし、体内に取り込まれたトリチウムは取り込まれた組織の新陳代謝のスピードによって体内にとどまる時間は異なるものの、長いものでは15年間も体内の組織内にとどまり、その間、人体を内部被ばくにさらし続ける場合がある。トリチウムの人体への影響はセシウムのように単に体内に存在している間だけ放射線を出す放射性物質のそれとは区別される必要がある。

 また、トリチウム中性子を放出するとヘリウムに変わるが、その際にトリチウム有機結合していた炭素や酸素、窒素、リン原子が不安定になり、DNAの科学結合の切断が起きると河田氏は言う。体内に入ったトリチウムトリチウム自体が出すベータ線によって人体を内部被ばくにさらすことに加え、構成元素を崩壊させることで分子破壊をもたらすという、他の放射性物質とは明らかに異なる性質を持っている。それががんを始めとする様々な病変の原因となっていることが故ロザリー・バーテル博士らによって指摘されている。」 (※「ロザリー・バーテル(2006年12月1日)カナダ原子力委員会での証言」(『トリチウムの危険性』 2020.04.14in東京 伴英幸・原子力資料情報室に掲載)を参照。) 引用、以上。

 

②ALPSで「処理」しきれない放射能汚染水――〝炭素14

 政府や東電は、ALPSで「処理」しきれないのはトリチウムだけであるかのように言います。他の放射性物質は、ほとんど取り除けたのでしょうか? トリチウムのことだけがデカ写しで報じられ、もっと毒性の強い放射性物質については、完全にとりのぞけたかのように、わたしたちは錯覚してしまいます。

 環境庁のHPのQ&Aでは、次のように記載されています。  

 

 Q ALPS処理水にはトリチウム以外の放射性物質が含まれているのではないか?

という質問に対しての回答を次のように示しています。

A タンクに貯めている水の約7割にはトリチウム以外にも、規制基準以上の放射性物質が含まれていますが、実際に処分を行う際には、これらの放射性物質が規制基準以下になるまで繰り返し浄化処理を実施する予定です。

 現在、タンクに貯めている水の約7割には、トリチウム以外にも、規制基準以上の放射性物質が残っています。これは、事故発生からしばらくの間、貯蔵されている水が原発敷地外に与える影響を急いで下げるため、処理量を優先して実施したためです。
 実際に処分を行う際には、これらの放射性物質が規制基準以下になるまで再度浄化処理を実施する予定です。
 なお、浄化処理を行ってもやはりトリチウムを取り除くことはできませんが、海水で大幅に希釈することにより、トリチウムも含めて規制基準を満たすようになります。この処置によって、トリチウム以外の放射性物質もさらに希釈されることとなるため、より安全性を確保することが可能です。

※2020年9月から東京電力により、多核種除去設備等処理水の二次処理の性能確認試験が行われました。この結果、二次処理前後で放射性物質の濃度が低減され、トリチウムを除く核種の告示濃度比総和が1未満に低減できることが確認されています。(除去対象核種(62種)+炭素14の告示濃度比総和:J1-C群;処理前 2,406 → 処理後 0.35)     ※下線およびゴチック体は、筆者。  引用、以上。

 

 この回答の冒頭で「タンクに貯めている水の約7割にはトリチウム以外にも、規制基準以上の放射性物質が含まれています」と書いてありますが、「ALPS処理水」と呼ばれているものが入っているタンクの中身は、このままでは海に流せないほど放射性物質がたっぷり入っている、ということがわかります。政府や東電のいう〔トリチウム以外はほとんどの放射性物質は取り除くことができる〕というフレーズは、あたかもタンクの中身は、ALPSで放射能を除去したトリチウム水だけのように受け取れます。実にうまく胡麻化されてしまいます。

 しかし、そのことは、冗談ではなく、ALPSの性能にかかわる深刻な問題です。

 また、回答の最後のカッコ書きの部分にある「除去対象核種(62種)+炭素14」という表記が気になりました。政府や東電は、トリチウム以外の62種の核種はALPSで取り除くことができる、と宣伝していましたが、突然「炭素14」が加わっています。「炭素14」は、当初、除去対象に入っていなかったはずですが、なぜ追加されたのでしょうか? そもそも、当初の除去対象に入っていなかった「炭素14」を除去できる能力をALPSは持っているのでしょうか?

 グリーンピースジャパンは、『東電福島第一原発 汚染水の危機2020』で、次のようにショーン・バーニー氏(※グリーンピース・ドイツのシニア原子力スペシャリスト)の報告書を紹介しています。

 *概要より――「報告書では、2011年に汚染水中の多種類の放射性核種の濃度を検出限界以下まで低減できることを示した米国・ビュロライト社のイオン交換技術を東電が採用しなかった経緯についても詳述している。

 ビュロライト社はイオン交換技術に関する数十年の経験を持っていたが、東芝と日立ジェネラルニュークリアエレクトリック社(HGNE)はほとんど持っていなかった。

 ALPSの欠陥により、処理済みの汚染水の72%は再度の処理が必要となっている。それもALPSにより行われるが、疑問である。

 ストロンチウム90のような高濃度の有害な放射性核種に加えて、東電は2020年8月27日、タンク内の汚染水に高レベルの炭素14の問題が存在することを初めて認めた。

 ALPSは、炭素14が長半減期核種であるにもかかわらず、それを除去するように設計されていなかった。炭素14は、無機炭素または有機炭素として自然界の複雑な炭素サイクルに、個体、液体または気体の状態で組み込まれている。したがって、炭素14はすべての生物にさまざまな濃度で取り込まれる。炭素14半減期は5,730年であり、何世代にもわたって全世界の人々の集団被曝線量に寄与する因子となる。

 東電と日本政府は、これまでのところ福島県民や国内外に向けて、炭素14の問題があると気づくのに、なぜこれほど長い年月を要したのかを説明していない。」

                       引用、以上。 

                           

 

③なぜ放射能汚染水を海に流すのか?

 長年原子力廃絶を訴え続けてきた・元京都大学原子炉実験所助教小出裕章氏は、著書『原発事故は終わっていない』(毎日新聞出版・2021年発行)の中で、「放射能汚染水を海に流す、これは究極の環境汚染である」、と批判しています。小出氏は、著書の中で、なぜ政府が放射能汚染水を海に流すのか、について次のように暴露しています。

 「東京電力福島第一原子力発電所で溶け落ちた炉心から発生したトリチウムの量は1~3号機合わせて200トンです。もし、原発事故が起きていなかったら、原子力推進派の構想では、使用済み核燃料を青森県六ケ所村の再処理工場に持ち込み、化学処理をほどこしたあと、プルトニウムを取り出し、残った核分裂生成物はガラス固化して地中に埋設、除去できないトリチウムは海洋放出する方針でした。六ケ所所村再処理工場では年間800トンの使用済み核燃料を処理する計画ですが、もし福島第一原子力発電所トリチウムを含む汚染水を海に流さず、タンクに貯蔵し続ける方策をとることになれば、六ケ所村での海洋放出もできなくなってしまい、再処理工場の稼働自体ができなくなります。だから、政府小委員会、原子力規制委員会東京電力は口が裂けても「タンクに貯蔵し続ける」とは言えないのです。今、福島第一原子力発電所で問題になっている200トン分の燃料に入っているトリチウムなど、彼らから見れば、大した量ではないのです。もし、それが問題だと言えば、もう、六ケ所再処理工場は稼働させられないことになってしまいますから、日本の原子力そのものが根底から崩れてしまうわけです。だから、彼らは絶対に「海に流す」という選択を諦めません。漁業関係者をはじめ、国内外の反発を受けて決定は先送りになっていますが、私は流すと思います。日本という国が原子力を推進しようとする限り、トリチウムは海洋放出する以外の方策は取れないのです。だからこそ、私は原子力を使うこと自体に反対してきたのです。」  引用、以上。           

                                

 わたしは、経産省の小委員会は、放射能汚染水の処理方法について、米国のキュリオン社やロシアのロスラオ社がトリチウムの分離技術を開発したことを把握し検証試験まで行っていたとしても、結局一番安価な〝海洋放出〟という方法を選んだのだと思っていました。しかし、小出氏の説明により、福島第一原子力発電所事故による汚染水の海洋放出は、単に放射性汚染水処理のコストの問題だけではないのだ、と考えるようになりました。